ぱらぱらめくる『量子確率論の基礎』

量子確率論の基礎 (数理情報科学シリーズ)

量子確率論の基礎 (数理情報科学シリーズ)

  • こちらで、この本の著者が同じ興味で書かれているらしいpdfをぱらぱらめくってメモをした
  • 重複が出てしまうので、この記事では、超うっすらとぱらぱらすることにする
  • 第1章は代数的確率空間の基礎。*-代数と状態について。そこに現れる代数的確率変数について。*-代数の大事な例である行列を取り上げ、行列代数と密度行列について
  • 第2章は、行列代数をヒルベルト空間上に作用する線形作用素と見ることができることを述べ、量子力学では物理量が作用素であることと繋いでいる
  • 第3章は、(多分)もっとも単純な例としてコイン投げと言う確率変数を取り上げ、それを代数的確率変数として扱うとはどう言うことかの説明をしつつ、それを量子力学でのフェルミオン・フォック確率空間として、物理の世界として説明している
  • 第4章は、量子調和振動子と言う、別の量子力学の基本的な題材での代数的確率の説明をしている。量子ブラウン運動とかポアソン型確率変数の代数的実現を扱い、代数的確率論の扱いにどんどん慣れることを求めている。量子力学では「ボゾン。フォック空間」のことだと言う
  • 第5章では、確率空間が独立である、と言うことの入り口として、可換な場合を扱う。整数格子上のランダムウォークがとりあげられる。この例は「独立性」をもつランダムウォークのもっとも考えやすい例として選ばれているらしい。図形的表現は多次元整数格子。
  • 第6章では、シングルトン条件と言うものを扱う。ちょっと、これの重要性がわからないままだし、どうしてここに配置されているのかもわからないままなのだが・・・(第7章で扱う自由独立性とシングルトン条件とが対応するかららしい)
  • 第7章では、自由群が作る等質樹木グラフにおけるランダムウォークを扱う。この例は、可換性の点で特徴的な例となっている。第5章が独立性、第7章が可換性の取り扱い、と言う対応関係らしい。この等質樹木上のランダムウォークのモーメント・密度行列がとても特徴的(らしい)。量子力学では「自由フォック空間」のことだとう言う。カタラン数(格子最短経路の数え上げと関連)と繋げて考えることもできる
  • 第8章は相互作用フォック確率空間について。第3、4、7章が、それぞれフェルミオン・フォック空間、ボゾン・フォック空間、自由フォック空間と言う相互作用フォック空間の中の特別なものだったので、多彩な量子の相互作用を扱う確率空間として、相互作用フォック空間を扱う、と言うこと。で表される量子力学の「なんだっけ、これ」に対して、フェルミオン、ボゾン、自由、たちは、綺麗な積分式が書けるわけだが、それらは、あるルール(ヤコビ数列)を使うと同じ形式に統一できて、ある確率測度のモーメント積分式にできる。そのうまい具合の分布をq-変形ガウス分布と言う。それらを合わせて行きましょうと言うこと。それがモーメントとして表せるし、そのこと自体が、「確率変数」として扱いますよ、と言うことのようだ。そしてモーメントを成分とする行列を考えたりする。さらに、直交多項式列が作れたりする。直交しているものが取れたら、それによって分解したくなる。それが量子分解。また、この過程で、作用素が行列として扱われ続ける。単純な設定なら単純な行列が、複雑な設定なら複雑な行列が現れる
  • 第9章はグラフとその隣接行列の漸近的スペクトル解析へと、代数的確率論を繋げる章
    • グラフには隣接行列がある。隣接行列はべき乗が計算できるし、そもそも、一般的に正方行列は*-代数として取り扱うことができるから、ここに、適当な状態を持ち込めば、隣接行列を代数的確率変数とした代数的確率空間ができる。特に、その実対称性から、古典的確率変数の代数的確率表現であることもわかる
    • 隣接行列の特徴として、グラフ距離が1である2点に対応する要素を1とする正方行列がいわゆる隣接行列であるが、それを、「距離が1である」ことに着目していることを強調して第一隣接行列と呼ぶことにすると、グラフ距離がiである2点に対する要素を1とする正方行列も作れて、第i隣接行列と言うようなものも扱えると言う
    • また、別の特徴として、A^kと言う第一隣接行列のk乗は、2点を結ぶ道の個数を要素とする行列であると言う特徴もある
    • さて。こんな隣接行列だが、量子力学で、作用素を生成・消滅と言う上がったり下がったりの作用の和で表すことを量子分解と言うけれど、それと同じように、ある2点の関係を、原点からの距離が近くなるのか遠くなるのか、同じなのかとで取り扱う、と言うことをしてやると、作用素が上げる作用素と下げる作用素とに分解できてくる。この辺りをグラフの特徴とか極限とかと結びつけてやると言うのがグラフのスペクトル分解との絡みになるらしい。ポセット構造の記述の一方法であると言い切って良さそうだ
    • この本では、扱っているのが、名の通ったグラフに関することであって、一般化していくと、収集がつかなくなるのか、何かあるのか、そのあたりまではよくわからない。
    • とはいえ、情報幾何と緩いながらも関係するとのあとがきの1文は興味深い

ぱらぱらめくる『非可換確率論における独立性と無限分解可能分布』

  • こちらのpdfを眺める
  • 1 非可換確率論(を読むと、大意は取れるようです…。大意が取れれば良いので、そこで終わりにするかもしれません)
    • 名前の由来
      • 量子力学では、物理量を非可換な作用素として扱う。消滅したり、生成したり、相互作用して変化したりが起きる。それを作用素の積で表現する。その記述に作用素のなす代数〜作用素環が用いられる
      • 量子力学における物理量(位置や運動量)は非可換であり、確率変数として定義される。したがって非可換確率変数と呼ぶ
      • 確率論的な非可換確率変数・非可換確率論の確率論的側面を強調したのが作用素環論
    • ランダム行列
      • 行列は積について非可換であり、行列成分を確率変数としたものは非可換確率変数としての好例になる。確率的な行列と言う意味で「ランダム行列」が研究される
      • ランダム行列は、原子核核子エネルギー準位の記述モデルとしての応用がある
      • 他方、Wishartによる統計・推定理論の側でもランダム行列は研究が始まった。半正定値行列〜分散共分散行列の性質を満たしつつ、ランダムな行列
      • それ以外にも多彩な応用分野があるが、共通して重要なのは、固有値が確率的にどのように分布しているかを調べることが大事であること
    • 自由確率論
      • いわゆる普通の確率変数が2つあって独立な時、可換なので、その期待値の計算は簡単だが、非可換だと簡単にならなくて、ごちゃごちゃしてくる。そんなごちゃごちゃした計算をしないといけない複数の非可換確率変数が独立か非独立かを考えるには、普通の「独立のルール」では判断ができない。それを「自由独立性」と呼び、それを論じるのが「自由確率論」。ちなみに、この自由確率論は、群や代数の自由積と相性が良いので、自由確率論との呼び名がある。
      • 独立性。独立であると言うことを、期待値・モーメントの具合で定めようとするのが古典確率論・代数的確率論の方針だが、そうすると「混合モーメントの計算規則」が「種々の独立性」を定めることと言い換えることができる。その線に沿っていくと、古典独立性、代数的確率論の自由独立性、ブール独立性、単調独立性があることが知られている。
    • 確率論のアナロジー
      • 独立性の定義を変えることで、古典的確率論がその他の確率論に変わる。そうすると、古典的確率論がもつ、色々な要素(フーリエ変換(特性関数)、確率分布のたたみ込み、中心極限定理、Poissonの少数の法則、無限分解可能性、Levy過程、確率積分エントロピーなどの、「その他の確率論用のアナロジー」が定義される。
    • ランダム行列と自由確率論
      • 自由確率論はランダム行列の固有値解析に応用できりることが知られている
      • 漸近的自由な複数のランダム行列の多項式固有値分布を数値的に調べるアルゴリズムなども、ここから導かれているらしい
      • 量子情報理論への応用も活発
    • 他分野への影響
      • 量子群、コクセター群、対称群、ヤング図形、Levy過程上の確率積分、グラフの積演算と隣接行列の関係、グラフの隣接行列のスペクトルの漸近的解析
  • 2 古典確率論とモーメント
    • モーメントは確率変数Xのn乗ごとに定まっていて、二つの古典独立な確率変数の場合、 XよYとのモーメントに分解して計算できることが知られている
    • (X+Y)のモーメントもXのモーメントとYのモーメントに分離した多項式になるし、X+Yの積率母関数が2つの確率変数の積率母関数の積となると言うような関係になっている
  • 3非可換確率論
    • 期待値で定める独立性
      • 古典独立の場合、E[X^{p1}Y^{q1}X^{p2}...X^{pn}Y^{qn}] = E[X^{p1+...+pn}]E[Y^{q1+...+qn}]
      • ブール独立の場合、E[X^{p1}Y^{q1}X^{p2}...X^{pn}Y^{qn}] = E[X^{p1}]E[Y^{q1}]...E[X^{pn}]E[Y^{qn}]
      • 単調独立の場合、E[X^{p1}Y^{q1}X^{p2}...X^{pn}Y^{qn}] = E[X^{p1+...+pn}]E[Y^{q1}]E[Y^{q2}]...E[Y^{qn}]
      • 反単調独立の場合、E[X^{p1}Y^{q1}X^{p2}...X^{pn}Y^{qn}] = E[X^{p1}]E[X^{p2}]...E[X^{pn}]E[Y^{q1+...+qn}]
    • さらに、単項式X^p多項式にしても成り立つ
    • 自由独立性の場合は、簡単な式にならない
      • P_1(x),Q_1(x),...,P_n(x),Q_n(x) \in C[x]E[P_i(X)]=E[Q_i(Y)] = 0 (\forall 1 \le i \le n)を満たすならば、E[P_1(X)Q_1(Y)...P_n(X)Q_n(Y)] = 0
      • また、この定義により\forall P(x),Q(x) \in C[x]のとき、P(X)Q(Y)とが自由独立
      • ただし、C(X)多項式全体を表し、C(x)は関係式の無い単なる文字を現すものとする
      • なんでこんなことをやっているのか、見通しが悪いが、X,Yが自由独立な時に、それぞれの平均値が0となるように変数のシフトを行うと、それらについて、E[P(X)] =E[Q(Y)]=0となり、E[XY] = E[X]E[Y]となると言う、「独立っぽさ」が見えてくる、と言う、そんな定義になっているそうだ

密度行列、トレース、確率

  • 昨日に引き続き代数的確率論
  • 代数的確率論では、エルミート行列が実確率変数に対応する、という話がある
  • 有名な例としてパウリ行列\begin{pmatrix}1\ 0 \\ 0 \ 1 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\ 1 \\ 1 \ 0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\ -i \\ i \ 0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\ 0 \\ 0 \ -1 \end{pmatrix}の線形和としてエルミート行列を作る、というものがある
  • このような確率変数があったときに、この確率変数がある状態を取っているときに、それは、純粋状態の混成になっていると量子力学では考える。純粋状態には確率があり、それの総和が1となる
  • この「状態」は、代数的確率論では、代数的確率空間を、*-代数と状態とのペアで表すが、そこで言う状態である
  • 今、エルミート正方行列を*-代数とする確率空間の状態は、正定値行列と1対1対応することが知られており、それを\rhoとすると、この確率変数のこの状態における「期待値」はTr(\rho a)、ただしaは確率変数に対応するエルミート行列
    • この\rhoは行列であって、代数的確率変数の状態を表現しているものである。そして、正定値行列であり、かつ、トレースが1(固有値の和が1)と言う条件を満たしている。これを、密度行列と言う
  • 一方、ある状態にあったときに、何かしらの物理量を観察するとしたときの、その物理量の期待値、というのも量子力学では大事
  • この物理量がやはり、行列で表されて、この行列の期待値は、今度は、先ほどの状態行列をブラとケットとに(?)分解したものでサンドイッチして計算する、という話がある
  • 量子力学の勉強を始めると、物理量の観測期待値の話と状態ベクトルとの話しが先に出てくるの対して
  • 代数的確率論の方では、確率変数(*-代数の要素)と状態を表す行列のペアという話が出てきたので(多分、それが原因だと思い込んでいるのだが)
  • こんがらがった。ので、この記事をメモする


量子確率論の基礎 (数理情報科学シリーズ)

量子確率論の基礎 (数理情報科学シリーズ)

隣接行列は代数的確率変数である

  • 量子確率論とその応用と言うpdfを読んでいる
  • 確率変数を*-代数と状態と呼ばれる関数とのペアとして表現する話であり、量子力学で使われてきているらしい
  • それをグラフに応用することができる
  • こちらに、冒頭のpdfの前半についてメモをした。代数的確率論とその量子力学とのつがなりについての部分である
  • 今日の記事では、そのpdfの後半であるグラフ理論への応用についてメモする
  • グラフでは隣接行列が大事である
  • そのグラフの隣接行列が生成する*-代数があると言う
  • それは何を意味するかと言うと、『グラフは代数的確率変数』として扱うことができる、と言うことである
  • このことにより、グラフ〜代数的確率変数に量子確率論を結び付け、その視点や手法(例えば量子分解)が使えるのだと言う
  • なお、グラフの隣接行列を用いて、グラフの特徴づけをする手法にグラフ・スペクトル理論と言うものがある
  • これは、隣接行列の固有値スペクトルを使う、と言うことで、(無向グラフの場合には、n(n-1)/2の情報をn個の固有値にまで、情報を落とすことに相当する
  • 代数的確率論では、確率変数をモーメントで表して、「同値性」を扱うので、n個まで情報が落ちずに済む(済みそう)
  • また、グラフは各頂点から何歩で行き着けるかによって、全てのノードを階層構造として扱うことができるが、この階層構造に代数的確率論での量子分解が使えると言う

古典確率空間と代数的確率空間

  • こちらで自由確率論・量子確率論というのを勉強するために少し書いた
  • こちらの文書を読んでいたのだが、「古典確率空間」と「代数的確率空間」との関係が理解できなくて全く前に進めなくなった。同文書の冒頭に『.代数的確率空間は, 古典確率論における確率空間を捨象し, 確率変数のなす (可換) 代数と平均値 E のもつ性質を抽象することで得られる概念である』とあるのだが、さっぱり解らなかったが、この表現の中にある『捨象し』が重要であるらしかった。『捨象し』っていうのは、「同じ確率空間という単語を使っているけど、表している対象に対応がとれるようなタイプの拡張ではなくて、大きなくくりでは共通するが、違いが大きいものとして捉えなおせ」ということを言っているようだ
  • 以下、その線に沿っての(現時点での)理解を書く
  • 古典確率空間っていうのは、確率変数を定義することができる「場所」のようなもの
    • 「なにが起きた、かにが起きた」というときの「なに」「かに」を全部集めた\Omegaがあって、
  • \Omegaには、どことどこはどんな風につながっているのか、つながっているからにはそれを\Omegaの部分集合として定められるよ、というような位相構造がある。\Omegaが有限離散要素の集合のときには、それぞれの要素に「有限の広さ」があるが、\Omegaが連続空間のときには、各点の「広さ」は無限小である。\Omegaの部分集合として初めて「広さ」が定まるようになる。これが\sigma加法族な構造
  • さらに、\Omegaの部分集合について[0,1]なる実数が対応づいている
  • この構成が古典確率空間
  • この古典確率空間には、\Omegaの部分集合にどのくらいの実数値を対応付けるかという写像を定めることができて、確率変数とは、この写像として定義できる
  • 大雑把に言うと、「古典確率空間」は古典的な確率変数を関数として定義する条件をそろえた環境のようなもの
  • さて。代数的確率空間の方は?というと
  • まず、古典確率空間・古典的確率変数と代数的確率空間との関係がどうなるかを見てみたい
  • 代数的確率空間では、*-代数がある。これには構成要素とそれらが満足する演算規則があるわけだが、この*-代数の要素は、古典的確率変数が対応し、*-代数は、古典的確率変数の(ある種の)集合が対応する
  • したがって、古典確率空間では、古典的確率変数を写像として表す場が「空間」であったが、代数的確率空間では、古典的確率変数が*-代数の集合に対応している点が違う。前者は、古典的確率変数が「空間に広がっている」のに対し、後者は、古典的確率変数が「空間の要素(点)」になっている
  • 代数的確率空間では状態と呼ばれる「空間」を複素数に対応付ける写像があるが、古典的確率変数をその期待値に対応付ける写像は、この「代数的確率空間の状態」であることが知られている
  • また、これからわかるように、代数的確率変数は、代数的確率空間の*-代数の要素のことである
  • そしてこのモーメント列を比較すれば、古典確率変数としての異同もわかる、という意味で、モーメント列は古典確率変数の本質を担っている
  • さて。代数的確率変数の場合にも、このモーメントが存在し、大事な役割をするが、ちょっと複雑になる
    • その理由の1つ目は、古典確率変数でa^2というのを考えるとき、a \times aを考えているわけだが、これを、代数的確率変数に拡張しようとしたとき、a \times a^*a \times aとの2つに区別することができるためである。なぜなら、古典確率変数ではa = a^*であるからa \times a = a \times a^*であるからである
    • その理由の2つ目は、掛け算の順序の問題である。古典確率変数では、a \times b = b \times aであるから、a^kを考えるとき、kの値だけが問題となる。他方、代数的確率変数では、a \times a^* \ne a^* \times aであるので、aもしくはa^*をいくつ掛け合わせたかを考えるときに、aの個数とa^*の個数のみを区別すれば事足りるわけではなく、aa^*とが作る順列の数の場合わけが必要だからである
    • このように、モーメントとして扱う量が多くなる(それを混合モーメントと呼ぶ)が、混合モーメントは代数的確率変数は重要で、混合モーメントがすべて等しい2つの代数的確率変数は、「同じ~確率同値」と言う