グラフ理論入門 1 基礎



1 グラフ理論の基礎

1.1 グラフと頂点の次数

  • グラフ(graph,G)の定義
    • 頂点集合(verices, vertex set, V)と辺集合(edges, edge set, E)との「集合の対」である
    • Vは空集合ではなく、Eは空集合であってもよい
  • グラフで表現される「事象」の例
  • グラフの分類
    • 有限グラフと無限グラフ
        • 有限グラフ(頂点集合V(G)の要素が有限であるグラフ)
        • 無限グラフ(頂点集合V(G)の要素が無限であるグラフ)
      • 両者は、各種定理の証明上の扱いがことなることからもわかるように、異なる性質を有する。ただし、遺伝統計学への応用にあたっては、「現実世界」の要素が有限であることから、有限グラフを扱うものと考えられる。ただし、「数多くの要素」をハンドリングするときに「無限とみなす(たとえば、変異の中立仮説のように)」必要も生じるものと想像される。
    • グラフ・多重グラフ・準グラフ
      • 多重グラフ:2以上の辺によって結ばれた頂点ペアを有するグラフ
      • 準グラフ:ただ1頂点にのみ接続する辺を有するグラフ(ループを有する)
      • (狭義の)グラフ:多重グラフでも準グラフでもないグラフ
  • グラフを表現するための用語
    • 隣接(adjacent):ある2頂点を結ぶ辺が存在するとき、その2頂点は「隣接する」と言う
    • 隣(neighbor):互いに隣接する2頂点があるとき、片方の頂点はもう片方の頂点の「隣」であると呼ぶ。
    • 近傍(neighborhood,neighbor set):ある頂点と隣接する頂点の集合のこと。
    • 接続(incident):ある辺の端がある頂点であるとき、その頂点はその辺に「接続している」と言う。また、逆にその辺はその頂点に「接続している」と言う。
    • グラフの表記
      • Gp,q:頂点数 p, 辺数 q のグラフ
    • 頂点に関する表現
      • 次数(degree):頂点に接続する辺の数
      • 孤立頂点(isolated vertex):次数=0の頂点
      • 端頂点(end vertex):次数=1の頂点
    • グラフの頂点次数が作る非負数数列:グラフ的数列
    • 道(path, Pn)
      • ラベル付けされたn+1個の頂点{x0,x1,x2,...,xn}とそれを結ぶ辺{x0x1,x1x2,...,xn-1xn}から成るグラフを長さnの道と言う。この道の端頂点がx0,xnである。
    • サイクル(cycle, Cn)
      • ラベル付けされたn個の頂点{x0,x1,...,xn-1}とそれを結ぶ辺{x0x1,x1x2,...,xn-1x0}から成るグラフを長さnのサイクルと言う。n-サイクルとも呼ぶ。頂点数が偶数のサイクルを偶サイクル、奇数のサイクルを奇サイクルと称する。
    • サイクルの対角的な道
      • サイクル上の異なる2頂点を結ぶ道で、サイクルとの交わりが、その道の2端頂点だけであるものを言う。
    • 距離(distance,d(x,y))
      • グラフの2頂点を結ぶ最短の道の長さ。ただし、道によって結ばれていない2頂点間の距離は無限大と定義する。
    • 直径(diameter)
      • グラフGの2頂点間の距離の最大値
        • Pnの直径はn
        • Wn(n>3)の直径は2
        • Knの直径は1
    • 正則(regular)
      • グラフGのすべての頂点の次数がkであるとき、Gは次数kの正則(k-regular)と言う。
      • Knは次数n-1の正則である。
    • r-因子(r-factor)
      • グラフGの全域部分グラフHが、次数rの正則であるとき、HはGのr-因子と呼ばれる。
      • 頂点個数が奇数のグラフには、1-因子は存在しないが、頂点個数が偶数のグラフであっても1-因子を持つとは限らない。
    • 橋(bridge)
      • Gの辺で、それをGから取り除くとGが2つの部分グラフに分かれて非連結となるものを言う。
      • 辺を持たない場合を除いて、木はすべて橋を持つ。実際、木の任意の辺は橋であり、木はこの性質を持つ、唯一の連結グラフである。
    • 堤(bank)
      • 橋を取り除いたあとに残された、2つの連結部分グラフを、この橋の堤と呼ぶ。
    • 成分(component)
      • 非連結グラフの部分グラフであり、連結グラフであり、それよりも大きい連結部分グラフに含まれないものを、成分と呼ぶ。
      • 非連結グラフは、成分に分けられ、その分け方は1意である。
    • 星(star)または傘(umbrella)
      • K1,tのこと。
    • 車輪グラフ(Wn)
      • n-サイクルとサイクルのn個の頂点のすべてと隣接する1頂点とからなるグラフ。

1.2 部分グラフ、同型なグラフ

  • 部分グラフ(subgraph,H)
    • あるグラフ G について、次の条件を満たすグラフ H を G の部分グラフと言う。
    • V(G)はV(H)の部分集合
    • E(H)はE(G)の部分集合
  • 真部分グラフ(proper subgraph)
    • HがGの部分グラフであって、Gでないとき、HをGの真部分グラフと言う。
  • 同型(isomorphic)
    • 2つのグラフが同数の頂点を持ち、次のように順列化できるとき、その2グラフは同定であると言う。
    • 2つのグラフに作製した順列が作るすべてのラベルペアにつき、その2頂点が隣接しているか否かが2グラフ間で一致する。
  • 特別な呼称を有するグラフ
    • ペテルセングラフ(Petersen graph)
    • 完全グラフ(complete graph, Kn: n個の頂点を持つ完全グラフ)
      • n個の頂点を持つグラフで、各頂点は残りの全ての頂点と隣接している。
      • n(n-1)/2本の辺を有する。
    • 完全2部グラフ(complete bipartite graph,Km,n)
      • m+n個の頂点を有し、2色に彩色(coloring)することで、m個とn個の頂点に分けられる。
      • また、すべての頂点は隣頂点を有する
    • 立体図形に相当するグラフ
      • K4:4面体
      • Q3:立方体グラフ
      • O :8面体グラフ(octahedral graph)
      • D :12面体グラフ(dodecahedral graph)
      • I :20面体グラフ(isosahedral graph)

1.3 木(tree)

  • 連結(connected):木を定義するの必要な概念
    • グラフGの任意の2頂点を結ぶ道が存在する場合、Gは連結であると言う。
  • 木(tree)
    • 連結グラフであり、かつ、その部分グラフの中にサイクルを含まないもの。
  • 林(forest)
    • サイクルを含まないグラフ
  • 木と林の関係
    • 林の任意の連結部分は木である。
    • 林の部分グラフはすべて林である。
    • 木は林であり、木のすべての部分グラフも林である。
  • 全域部分グラフ(spanning subgraph)
    • Gの部分グラフで、Gのすべての頂点を含むもの。
  • 全域木
    • 全域部分グラフのうち、木であるもの。
    • 木とサイクルについては、グラフ理論上の興味深い課題がある。
  • その他
    • 回転トリック(turning trick)
      • グラフに関する証明問題で、頂点・辺に関して、帰納的に証明を進めようとするときに、段階的に対象頂点・変について処理を施していくための手順