次世代シークエンサーと遺伝カウンセリング

  • 次世代シークエンシング・Whole genome sequencing の登場で遺伝カウンセリングの主要標的であった、新生児スクリーニングも変化を余儀なくされている
  • こちらのペイパー(Genomic Counseling in the Newborn Period: Experiences and Views of Genetic Counselors.)はアメリカのカウンセラーの意識調査に関するもので、それと同タイトルの学位論文のPDFはこちら
  • どんな点が課題なのかの整理のためにぱらぱらめくってみる
  • WHOのクライテリア(Wilson and Jungner criteriaは1968に出され、今でも重要な位置を占める、この分野の基準。それの改変もすすむ→こちら)
    • 1968から提唱され使い続けられているゴールドスタンダード Wilson and Jungner classic screening criteria1
    • 1. The condition sought should be an important health problem.
      • 重要な健康問題に関するものであること
    • 2. There should be an accepted treatment for patients with recognized disease.
      • 病気であるとわかった患者に受容可能な治療法があること
    • 3. Facilities for diagnosis and treatment should be available.
      • 診断と治療の設備・方法が活用可能であること
    • 4. There should be a recognizable latent or early symptomatic stage.
      • 未発病期・初期が確認可能であること
    • 5. There should be a suitable test or examination.
      • 適切な検査や診断法があること
    • 6. The test should be acceptable to the population.
      • その検査・診断法が世の中に受け入れられること
    • 7. The natural history of the condition, including development from latent to declared disease, should be adequately understood.
      • 未発病期から顕病状態までを含めて、自然史が十分にわかっていること
    • 8. There should be an agreed policy on whom to treat as patients.
      • 誰が思料されるべきかに関して、コンセンサスが得られていること
    • 9. The cost of case-finding (including diagnosis and treatment of patients diagnosed) should be economically balanced in relation to possible expenditure on medical care as a whole.
      • 患者検出手続きと診断された患者の治療とを含む、患者検出コストが、医療全体にかけられる費用に照らして経済的にバランスが取れていること
    • 10. Case-finding should be a continuing process and not a “once and for all” project.
      • 患者検出手続きが持続可能なものであり、「一発屋」でないこと
    • 新規にスクリーニングに基準を定めるなら…という例 Synthesis of emerging screening criteria proposed over the past 40 years
    • The screening programme should respond to a recognized need.
      • 必要と認められたものに対するスクリーニングであること
    • The objectives of screening should be defined at the outset.
      • スクリーニングの目的が、あらかじめ定義されていること
    • There should be a defined target population.
      • 対象集団が定義されていること
    • There should be scientific evidence of screening programme effectiveness.
      • スクリーニングが効果的であることが科学的に示されていること
    • The programme should integrate education, testing, clinical services and programme management.
      • スクリーニングプログラムには、啓蒙・検査・臨床サービス・プログラムの運営に関する総合的なものであること
    • There should be quality assurance, with mechanisms to minimize potential risks of screening.
      • 質が保証されスクリーニングに伴いうるリスクを最少化する方策が取られていること
    • The programme should ensure informed choice, confidentiality and respect for autonomy.
      • 情報を提供された上で選択でき、また、個人の秘密が守られ、自主的判断が尊重されるように作られていること
    • The programme should promote equity and access to screening for the entire target population.
      • すべての標的集団構成員がスクリーニングに公平に参加できるように普及活動をすること
    • Programme evaluation should be planned from the outset.
      • スクリーニングプログラムの評価・検証方法は予め、計画しておくこと
    • The overall benefits of screening should outweigh the harm.
      • スクリーニングによる利益が害を全体として上回ること
  • 遺伝カウンセラーは次世代シークエンサーの登場で、直面していることが書かれているが、あまり系統立ってはいない
  • 自分なりに現状を整理する
    • 遺伝リスク的な側面
      • 同時に多数の遺伝病の発病可能性情報を手にし、提供できる状況になっている
        • その中には、上の基準に照らして遺伝カウンセリングサービスが適する疾患もあればそうでない疾患もある(自然史、治療法の有無)
      • また、いわゆるメンデル遺伝病ではない、「リスクがあります」的な疾病(コモンディジーズ)についての情報もある
        • その場合には、基本的にはクロスセクショナルなリスク比はわかるものの、自然史は未だ不明
    • リスクの提示方法に関する面
      • 遺伝因子保有状態が明快(場合によっては、\frac{1}{2^k}を基本とした確率としてではあるが明快)であって、その確率と、疾病の自然史とに照らして、将来を説明することが比較的簡単であったメンデル病について、形成されてきたのが、遺伝カウンセリング文化である。
      • 確率的なコモンディジーズについては、「いつ」なのかも不定、「どれくらいの確率」なのかも、範囲が広い。それをどのように情報提供するのかにコンセンサスはない(ただし、確率的な現象に関する情報提供方法については、遺伝医学に関わらず、コンセンサスはないのだが…)
    • 同意取得・自主性に関する側面
      • 個別の疾患についても、調べるか・結果を知りたいか、について、丁寧にカウンセリングしてきたが、「一気にたくさん」という状況にあって、「個別の疾患」ではなくて「疾患を類別」して同意を取るのか、それはどうやって、その類別基準は何か、その類別基準があるとして、それは正しいのか、とかの問題もある