鑑別診断

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  • 鑑別診断とは、ある情報(主訴)が与えられたときに、その情報の原因となりうる疾病のリストのこと
  • 少し整理する
  • 何も情報がないときに、ある人がある疾病であるという確率は、有病率から推定する。これを『基礎事前確率』とでも呼ぶことにしよう。世にあるありとあらゆる疾病が、仮説として考慮される(これらの仮説は、相互に排他的ではない(風邪をひきつつ、高血圧症であり、さらに、脳腫瘍である、というように疾患重複がありうるからである。仮説空間を考えるときには相互に排他的な仮説を考える方がよいが、今はこの点は、留意するにとどめることとしよう)
  • 年齢・性別などの情報が与えられると、年齢・性別によって層別化された有病率を用いて、その人がある疾病であるという確率を推定する。これを『臨床情報前事前確率』と呼ぶことにしよう。以下に示すように、臨床情報が使われる前の段階だからである
  • 今、さらなる情報として主訴が与えられたとする。そうすると、そのような症状を主訴とする確率が、疾病ごとに異なるので、疾病ごとに「主訴をもたらす尤度」が変わる。この尤度には、『基礎事前確率』が影響しているし、『臨床情報前事前確率』も影響している
  • このような考えの下、「鑑別診断〜情報の原因となりうる疾病のリスト」を考えてみよう
  • 「尤度」が0ではない疾病のリスト、と言い換えられるだろう
  • 実際には、「尤度」が0になることはないだろうから、『尤度が無視しえない程度に大きな疾病のリスト』と言うことになる
  • では鑑別診断をするためには、何の情報があって、どういう風に情報が使えればよいのだろうか?
  • ある特定の主訴に対して鑑別診断ができることを目指すとする(すべての主訴に関する鑑別診断ができなくても、医者としてはよいからである。『自分が鑑別診断できる主訴と、できない主訴とを仕分けられて、鑑別診断できない主訴の時には、『できません』と言って、他の医者に頼ることができるという前提である。ただし、医者は、「自分一人しかいない」状況でも責任を取ることが道義的にも法的にも求められているので、個々のところは、さらに丁寧に鑑別診断論を展開する必要はあるが、今は、「完璧に近い鑑別診断」ができるのはある特定の主訴に対してだけである、というような枠組みで話を進めるために、このような言い回しをしておくことにする)
    • 「すべての疾病」のリストを持っていること(D=\{d1,d2,...\})
    • その『臨床情報前事前確率』(Pre(d_i|pt-info):pt-infoとは患者の年齢性別などの情報という意味)
    • 各々の疾病が、今、対象としている症状(c)を主訴とする確率(P_{d_i}(CC=c))、ただし、年齢性別など関係なく、「解剖・生理・病理学的にそのようになる確率」という意味
  • このようにすると、\frac{Pre(d_i|pt-info)\times P_{d_i}(CC=c)}{\sum_{d_k \in D}Pre(d_k|pt-info)\times P_{d_k}(CC=c)}が、ある主訴に対する、d_iの相対的尤度割合とでも言うもの
  • すべての疾患についてこれを計算するのか?
    • 鑑別診断学においては、「鑑別診断リスト」の長さを誇るという側面もあるだろう
    • しかしながら、適切な情報処理という場合には、リストの長さはある意味で非効率である
    • では何が必要か?
  • 「主訴」という情報を受け取って、次に取るべき行動(問診・身体所見とり・検査のオーダーなど)が同じ疾患は、ひとくくりにして、その行動ごとに、「行うべきか行わなくてもよいか」の判断を下せればよい。「行うべき行動」の集合に「順序」をつけられればよい。「順序」には「緊急度」も含まれる。(こちらでの赤色は「緊急度」を表しているそうですが、「取るべき行動」でくくりなおして、その行動の緊急性でさらに細分化すると、また違った、リストの描き方・表示の仕方が出てくるかもしれません
  • すべての疾患のリストを「リストとして保持している」のか?
    • 鑑別診断リストを作るとき、どのようにしているだろうか?
    • 疾病は、もっとも大まかには、「解剖」「病理」の分類を使って、カテゴリ分けしてあるはずだから、それを用いている。
      • 例えば、「腹痛」は「腹部臓器」「その周辺臓器」「周辺とは限らない臓器」のできごとであって、「できごと」とは「炎症・変性・…」と「病理学総論(こちらとか)」に出てくるカテゴリで分けた上で、さらに「個別の疾病を取り立てる必要があれば」「病理各論」に入ればよい、とそんな構造になってきます。
    • 『解剖』x『病理』の棚の指定ができて、その棚が整理されていれば、疾病名を取り出すことは容易です
    • また、「名前のついていない疾病」も、「この棚」には納められていることが、このようなアプローチの優位性です。どこの本を開いても書いていない疾病であっても、既存の「解剖」と「病理」の分類に従うものであれば、この棚の中の「疾病名未決」という補集合の中にあると思って行動しておけばよいからです
    • さらに言えば、「解剖」も「病理」も「未だに名前の与えられていない『解剖構造』」「未だに名前の与えられていない『病理』」があるというスタンスで棚を作っておく(このような『未だ…』という『補集合の棚』を用意しておくというスタンス)と、さらに、安心です。大学病院をはじめとする、研究志向の病院は、このような『未決』を考慮する世界であることを意識すると、その初期研修における意義が廃れることはないでしょう。ただし、『未決』の取り扱いを教えられる組織であることが必要ですが…