第1限 はじめに 遺伝統計学のための統計学基礎
統計学は、データの集合・ばらつきのあるデータ、から、数値上の特徴や規則性・不規則性を見いだす学問である。統計学では、ばらつきのあるデータを用いて研究し、得られたデータを提示し解釈する手法が開発されている。統計学を特徴づける概念には、分布・確率・標本・推定がある。
遺伝学は、統計学の成立・発展において大きな役割を果たしてきているという背景があり、遺伝学分野での統計学の利用範囲は広く、根本的な役割を果たしている。
遺伝学が統計学と深い関係にある理由としては、次の点が挙げられる。
- 遺伝学には、生物の進化(生物種の時間的変遷)と生物種内の遺伝現象(遺伝子の伝達)とが大きく含まれる
- 進化(生物種とその時間的変遷)は生物としての共通項と種間の差異を対象とするが、「共通項の中の差異」が「統計学の扱うばらつき」に相当する
- 遺伝現象(遺伝子の伝達)は、同一生物種の個体の「集団」におきる点が統計学の対象として好適である
- 同一生物種の個体の集団は、種としての共通項とその多様性(おそらく生物の進化戦略の一つ)を持つが、「共通項の中の差異」が「統計学の扱うばらつき」に相当する
- 遺伝現象(遺伝子の伝達)は、交配・組換え・変異という、個体レベル・分子レベルでの確率的事象の結果であるが、この「確率」的事象が統計学の解析対象である
- また、遺伝現象には、交配・組換え・変異という遺伝的確率事象に加えて、環境要因という確率事象も影響を与える。現代の育種学・生殖学・分子遺伝学では、交配・組換え・変異の遺伝的確率事象は非確率的に操作することも可能であるが、環境要因の確率事象は困難である