駆け足で読む『カオス時系列解析の基礎』

  • 時系列データについて、一通り考えたので、そろそろ本を読もう

池口 徹,小室 元政,山田 泰司
産業図書
発売日:2000-11

カオスを想定した時系列データの解析方法の背景知識を得るための好著。
大切な定理には証明がついている(それがほしい向きには有用、それを飛ばして、「つかみ」だけを入れたい向きには無用)。
網羅して、レファレンスがついているので、調べるときには便利(逆に、そこのところは気にしない、という向き(ぱらぱらめくるだけの用途)には、少し煩雑かも。

  • 第1章 序論
  • 第2章 時系列の埋め込みの実践
    • 「埋め込み」
      • 観測時系列から時間遅れの座標系への変換(アトラクタの再構成法(の1つ))
    • 力学系 dynamical systesm」
      • ある時刻における状態が、微分方程式、差分方程式、微分差分方程式により決定されるシステム
    • 「アトラクタ attractor」
      • 十分時間が経った後の、k次元状態空間内の力学系の漸近的な振舞い
      • アトラクタの分類
        • 平衡点
        • リミットサイクル(周期)
        • トーラス(準周期)
        • 不思議なアトラクタ、または、カオス
      • アトラクタの分類と次元
        • 整数次元:平衡点・リミットサイクル・トーラス
        • 非整数:フラクタル構造・・・カオスの多くがこれ
        • 状態空間次元そのもの:まったくのランダムなデータ〜空間のランダムな埋め尽くし
項目 平衡点 リミットサイクル k-トーラス 不思議なアトラク ランダム
振舞い 平衡状態 周期 準周期 カオス ノイズ
構造 閉曲線\frac{\mathbf{R}}{\mathbf{Z}} \frac{\mathbf{R^k}}{\mathbf{Z^k}};k \ge 2 フラクタル構造 無構造
次元 0 1 k 非整数 n(状態空間次元)
    • リアプノフスペクトラム
      • 平衡点
        • \lambda_i <0
      • リミットサイクル
        • \lambda_1=0,\lambda_i <0;i=2,3,...,n
      • k-トーラス
        • \lambda_i=0;i\le k,\lambda_i<0 i>k
      • 不思議なアトラク
        • \lambda_i>0 i=1,..,m-1;\lambda_m=0;\lambda_i<0,i=m+1,...
    • 多次元空間軌道の埋め込みとはめ込み(参考、こちら)
      • 多次元空間の軌道曲線を低次元空間で見ると、重なったり折れ曲がったりする
      • とにかく、低次元空間に射影してやると「はめ込んだ」ことになる(これで用語はよいのか…)
      • その「はめ込み」が交点を持たなければ、「1対1対応」であって、これは、「ある意味で都合のよい」「はめ込み方」である
      • また、その「はめ込み」がなめらかな曲線になっていれば、(元が曲線だったので)これも都合がよい
      • このようなことから、「1対1対応」であって、「なめらか」にはめ込めたときは、名前を特別にして「埋め込み」と呼ぼう(ということらしい)
      • k次元多様体は2k+1次元空間に「埋め込める」ので、これだけの次元拡大をしてやれば、観察データをうまく取り扱える(ホイットニーの埋め込み定理)
    • 時間遅れ座標〜1変数の場合
      • 微分座標系((y(t),y'(t),y''(t),..))とリアプノフ指数の保存との関係がある
      • 観測データから微分座標系を取り出すときには工夫が必要
      • 一定の時間遅れ毎の差分による時間遅れ座標系を用いる方法
      • 1変数データからアトラクタを再構成
      • 観測時刻数Nの等間隔時系列データy(t)があったときに、\tau飛ばしのm次元時間遅れ座標系によるアトラクタ再構成とは
        • 1変数のデータを用いて、v(t)=(y(t),y(t+\tau),y(t+2\tau),...,y(t+(m-1)\tau))なるm次元ベクトルのN-(\tau+1)\times m +1時刻点データを算出すると、それがm次元空間でとる挙動が、元の多変量アトラクタを再構成していることになっている、という話
      • Rで行えば…こちら
    • データにフィルタをかけると再構成されるアトラクタの次元に影響が出たりでなかったり。それがフィルタの方法によって定まる(部分がある)という話も(Rのfilter()関数を使ってみた例も、以下のRソースには入れておく)
    • 発火間隔データ
      • 変量値を時系列追跡観察するのではなく、事象の発生時刻を記録するタイプの時系列データでも、同様の取り扱いが可能
    • 時間遅れ値の設定基準:いろいろある→難しいということ
      • 時系列信号の時間相関に関する情報に基づいて座標軸を構成する方法
      • 再構成されたアトラクタの空間分布を考慮することにより最適な時間遅れ値を求める手法
    • 時間相関を用いる方法
      • 時系列信号の主要な周期の数分の一となる時刻
      • 自己相関関数が最初に0になる時刻
      • 自己相関関数が1/eとなる時刻
      • 自己相関関数が最初に極小値をとる時刻
      • 自己相関関数がの包絡線が1/eとなる時刻
      • 高次の自己相関係数が上述の基準を満たす時刻
      • 非線形相関関数が最初に0となる時刻
    • 再構成アトラクタの空間分布を用いる方法
      • 再構成状態空間における結合確率密度
      • 相互情報量
      • 相関積分を応用した指標
      • 多次元での冗長度
      • 冗長度と夢想完成の両者を考慮した指標
      • 変動率
      • 充填率
      • 累積局所変形度
      • 連続度
      • 特異値比
      • 局所指数発展プロット
      • 再構成拡大度
  • 第3章 (フラクタルの)埋め込み定理
    • コンパクトな多様体のボックスカウント次元
      • コンパクトな多様体の「周囲すべて」を囲むことを考える
      • 球で囲みつつ、その球をどんどん小さくしていくときに、\lim_{\epsilon \to 0} \frac{\log(N)}{-\log(\epsilon)}という極限をボックスカウント次元と言う
      • 「つるん」とした多様体の場合、球を2次元的に並べるか、3次元的に並べるか、k次元的に並べるか、がこの収束に影響するので、「次元」として良い定義
      • さらに、「つるん」とした多様体ならさほどたくさんの球は要らないけれど、「小さくしても小さくしても、でこぼこが解消しないような多様体(フラクタル)」では、球の数が全然減らない!ので、フラクタルと「つるん」多様体とは、このボックスカウント次元で区別できる
    • フラクタルの埋め込み定理
      • コンパクトな多様体のボックスカウント次元がdのとき、n>2d次元空間へ1対1対応ではめ込める
      • 空間の移動を定義して、その移動を繰り返すことを考える。また、その移動の繰り返しに周期性を持たせる。ある多様体があるボックスカウント次元を持ち、それが、この移動処理で移動する様子を観察したとする。そのときに、移動を表す行列の固有値がはめ込みと関係する
        • 元の多様体微分可能性から、埋め込みになるかが(たぶん)決まる
        • 観察データから時間遅れ座標を取り出すことと関係する
        • この時間遅れ座標のデータ行列は、『JH分解』できて、Jは1,-1,0のみからなる特殊な行列、Hはその相方。JとHとは「移動」の特徴を分解して持ち合っている2つの行列となっている。
        • Jの1,-1,0のパターンは、(多)変量の周期性と関係している
  • 第4章 カオス時系列解析の基礎理論
    • 決定論的カオスの特長。そのアトラクタが
      • 静的(幾何学的)な特徴としての自己相似性
      • 動的(力学的)な特徴としての軌道不安定性(初期値に対する、鋭敏な依存性)とそれに起因して生じる長期予測不能
    • これらの特徴に関する情報を引き出すには、それぞれ、以下がある
  • 第5章 非線形予測理論
  • 第6章 カオス時系列解析と統計的仮説検定法
    • 非線形であることを示すことはカオスであることを示すことより容易
    • サロゲートデータ、ブートストラップ